ユメ花火
ユメ花火
ドンドコと聞こえる太鼓の音
お祭りかな
笛の音も聞こえる
起きたばかりの寝ぼけた頭
耳に音を取り入れ考えのまとまらない自分がいる
自室の扉が開かれ向こう側に現れた幼馴染
見た事もない浴衣姿
そこに備わるよく知った笑顔
『来たよ』
そう一言
約束もしていないのにやって来るのはいつもの事
場面が変わってお祭り会場
物悲しい曇り空の下に太鼓と笛の音色が響いている
現実と空想が入り混じった世界
何故かそう理解した自分の思考
『花火があがるよ』
爛々とした目つきで彼女が言う
花火なんか上がる訳がない
だってここは小さな町内の祭り会場
花火なんか上がった事がない
ここで生まれ育った自分が一番理解している
そんな確信に反して打ち上げられる花火
それは低く飛び
広く拡散し
それでいて地面に降り注ぐ
現実世界で言えば危険そのものだ
失敗作もいいところだ
でも、それが楽しい
シャワーのように降り注ぐ火花
そんな火花を避け避け喜ぶ観客
異常な光景を目にして唖然とする俺たち
それでいてそれが当たり前の光景と認識するフシギ
でも、火傷はごめんだね
偶然見つけたベニヤ板の裏に二人で隠れ
『火を被ったら火傷するね』
なんて言い合って小さく笑う
目の前の、いつも見た彼女
たぶん、
その笑顔は彼女の家族の次に俺が一番よく知っている
ある種の兄妹
ケンカばかり
そして仲直り
そんな月日
全部懐かしい
消せるはずのない記憶…
『夢が終わるみたい』
ベニヤ板から姿を出して彼女が言う
『なんか早いね』
そう言って俺もベニヤ板の裏から外に出る
雲った大空
妙にセピア色の似合う変な色
花火はもう上がらない
『また来るよ』
彼女が笑う
物悲しげで
無理に笑っている
『いつでも来い』
俺も答える
その声はどんな感じだったのか
その表情はどんなものだったのか
目が覚めると泣いていた
『まだ来るなよ!』
という言葉を毎回覚め際に聞かされる
その言葉が一番悲しい
今年も夏が迫っていたね
仕方がない
今にも折れてしまいそうな人生を頑張るか
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