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シルス&ルルフィー ちびっこ冒険隊、がんばります! 第一章2

オリジナル小説 シルス&ルルフィー

シルス&ルルフィー ちびっこ冒険隊、がんばります! 第一章2

シルス AND ルルフィー
ハチャメチャ第一章

《 ようこそ! コルーの村へ 2》


「…判ったか?」
「…わかったか?」
練習場からみんな揃って村に帰る途中、ルルフィーに腹を立てながらもしょぼくれ顔の俺に、ちょっと厳しく言い放ったのはお父さん。
あの後、ルルフィーに全てを喋られ、くどくど言われた上に、げんこつ一個。…ちなみに、お父さんの後を追って言葉を足したのがルルフィーのばか。…くそ。
「分かったら返事」
「へんじ!」
「はぁ~い…」
「うむ。むやみな魔法行使は避けなくてはな。間違えて仲間内を殺めたりしたら大変な事になる。もうだめだからな」
「はぁ~い…」
「…ということ。あやめちゃだめよ、あっぷっぷぅ~」
あ~っ! ムカムカ! 漢字で描けないんだったら言うなっ! …って言いたいところだけど、また怒られるから、やめておいて…やろう!
…とは思っても、なんだか気分がすっきりしないから、話の内容を変えてみる。

今、俺達が練習場から村に戻っているというのは、さっき言ったとおり。
なんで大人がわざわざ揃って子供2人を迎えに来たかといえば、コルーの村では定期的に行なわれる『モンスター討伐の日』だからなんだ。
『モンスター討伐』とは、読んだままの内容。
俺達が住む村は、ヨア王国の中でも一番広い範囲を占める『デルモの森』という森のほぼ中央に聳える、これまたヨア王国で一番高い山の『デルモ山』という中にあるんだ。しかも、けっこうな山頂付近…。
そんな中で日々を送っているわけだから、もしも森や山に住んでいるモンスターに襲われでもしたら、当然、助けの声なんてどこにも届かないワケ。
冒険者といわれる人なら『知ってて当たり前』なんだけど、モンスターといわれる動物達は、こざっぱりした平原よりも、食料の多い森や山に住むことが多いんだって。
それに、人間にしろ、動物にしろ、どこに住んでいたって同じ種族で身を寄せ合うのは当たり前の話。
時には種族同士のぶつかり合いになる事もあるし、それが動物同士に限られた話でもないんだ。
いくら手で武器を持ち、それぞれが得意分野の魔法を使う事が出来る人間でも、他の動物から見る『人間』とは、やっぱり『単なる動物』に過ぎないワケ。
食糧不足ともなれば、集団で村の畑を狙ってくる事もある…なんて事も聞くしね。
そんな言葉を並べていくと、コルーの村って最悪の条件の中にあると思わない?『モンスターに囲まれて住んでいる』って言っても過言じゃないんだから。ここに村を創ろうとした人の考えが理解できないな。
…ま、なんにしても、そうなり難いように、って言うより、ならないように、村では年に何回か討伐部隊を編成して、コルー村周辺やその民が使用する場所、それと、村を繋ぐ道を視て廻るんだ。
そんな折、コルー住民が使用する場所にモンスターが居た場合、さてどうするか?
そういった時は、ちょっとかわいそうだけど、武器や魔法を振るってモンスターを山の中に追い返すんだ。「ここはお前たちの来る場所じゃないんだゾッ!」って、言葉代わりにね。
その時に気をつけなきゃならないのが、いくら討伐部隊だからといって、むやみに傷つけたりしない事。コレは絶対の規則。
なぜかというと、さっきも言ったとおり、モンスターも人間と同じで集団で生活している事が多いからね。
例えば、一匹の何かを殺しちゃったとして、その仲間が近くで見ていたら…。
『復讐』………。
もし、モンスターが集団になってそんな行動を取れば、人間の力なんて微々たるモノ。
結果的に討伐部隊を出したばっかりに、「村が無くなっちゃった」。なんて事になるかも知れないからね。
そういうわけで、すき好んで攻撃しちゃダメなんだ。もちろん、攻撃を受けたときは話が異なるけれどね。
それと、討伐の対象外となる場所も2つあって、人が移動に使う山道がその内の1つなんだ。
それはどうしてか?
まあ、説明すれば納得。人が何かを手に入れるとき、そこらへんを歩き回って目的のものを手に入れる事があるでしょ? それはモンスターだって同じ。食べ物を探せば山中をウロウロするし、寝場所を探すのだって、やっぱりウロウロ…。当然、そうしている途中で山道にぶつかれば横切る事もあるし、面倒臭がりともなれば山道を人間と同じ感覚で扱うヤツもいる。
そんな「移動中」のモンスターをイキナリ倒すわけにはいかないモンね。
だから、いくら人間の使用場所といっても、山道ではモンスターと目が合っても、向こうが襲ってこない限り手出しは禁物との事。人間だって、モンスターの住処と知ってて果物を取って来る事もあるし。
なんて言うのかな? モチツモタレズの精神ってヤツかな?
それと、もう一ヵ所は、村の一部でもある溜め池がソレ。
ここ、デルモ山は、どういったわけか、すごく雨水を吸収し易くなっているみたいで、そのためか川が一つもないんだ。
だから、昔の人が作った溜め池が唯一の水場となっていて、村の人はそこから水を汲んできたり、洗濯なんかをしているんだ。
そんな生活の源とも言える溜め池に、人が水を飲みに行く事はもちろん、たまにだけど、モンスターも水を飲みに来る事があるんだ。
別名で「憩いの場所」なんて表現されているように、溜め池周辺では不思議とモンスターも襲い掛かってこようとはしない。
例え集団で現れたとしてもね。
事実、かなり前の話になるけど、俺がお母さんに洗濯を頼まれて、この上なくイヤイヤ洗っていた時も、凶暴で人間とは相性が合わないとされる『ジャイアント・アント』っていう、デッカイ蟻んこが俺の隣で水を飲みに来た事があったんだ。
すっごく怖かったけれど、黙って見ていたら(悲鳴も上げられなかった)、「あ、すいません、水…、ください」「あ、すいません、水、有難うございました…」ってな感じで、来た時と帰る直前の二回だけ俺に目を合わせただけで、「殺意」なんて、これっぽっちも無かったんだ。
…むしろ、俺が蟻んこの隙を狙っていたくらい(ちびって動く事も出来なかったけど)。
とにかく、溜め池ならば村人も襲われない。なんて、みんなが信じきっている。…という事で、村の溜め池周辺も討伐の対象外となっているんだ。

「…では、討伐の準備を」
ありゃ? ずっと説明していたら、いつの間にか村の中央まで来ていたみたい。
お父さんの掛け声と共に、すぐさま言われた通りの行動を取るのは他の大人の人達。今回の討伐リーダーはお父さんか。
そんな事を思って村を見渡すと、…誰も見当たらない。討伐の日って、いつもこんな感じなんだ。その理由は「村の戦士達が揃って村を出てしまうから」だとか。まあ、納得いかないわけではないけど………、いや、納得いかないなぁ。
…だって、同じ「村の戦士達」がもっと多い頭数で山を降りた時なんかは、みんな外でわいわいしているんだよ。「もうちょっとすれば新鮮な食料が帰ってくる!」とか言って。
…なんか、『討伐』という言葉に惑わされているような…?
まあ、それはさておき、静まり返った村の中を無言で各自宅に戻るのは、アルフさんとピニーのおっちゃん、そして俺達。
その一方で、村の中央に向かうのはレッタさん。ちゃんと出発の準備をしているんだね。関心関心。…というか、普通はそれが当り前のような…。
ところで、ここまでお父さんやらピニーのおっちゃんやら、名前だけをダラダラ出していて、肝心となる紹介をしていなかったね。脇役という事で大ざっぱになるけど、一応紹介しとこうか。ああ、面倒面倒。

まず、1人目はお父さん。
フルネームは『ロン=ギルス』といって、話によれば26年前に起こったヨア王国全体の危機を救った『三勇士』の1人だとか。
今じゃ人から『生きる伝説』なんて呼ばれているみたいだけど、俺にはとても信じられない。
…だって、昨日も、俺が最後の楽しみにと取っておいたハンバーグを、「残しちゃだめじゃないか」とか言って食べちゃうし、その前だって、「やっぱり我が家が一番だな」とか言っておきながら、その「一番」の出入り口の玄関を壊しちゃった事もあるんだよ。…こんな人が本当に『伝説』かね。
でもね、この村に来る前までは、ヨア王国の拠点となる『アールム城』というお城で、国王の右腕として第一剣士部隊隊長っていうのをやっていたんだ。
でも、実際に戦っているところを見た事ないから、「強かった」というウワサをここに記しておくね。
ちなみに、お父さんは剣士部隊だからといって、なにも「剣技」による戦い方を専門とするわけではないんだ。
実際には魔法の方が得意だったとか。
だから、2つの攻撃手段を巧みに操るお父さんを、人は『マジック・ユーザー』と『ソルジャー』と呼ばれる2つの名前を足したクラス、『マジック・ソルジャー』なんて呼んでいるみたい。
『クラス』というのは、人がその人を指して一言に呼ぶ『職種』みたいなもの。君の世界で言えば、『科学者』とか『営業マン』とかってところかな?

次に、ピニーのおっちゃん。
ピニーのおっちゃんのちゃんとした名前は『ピニー・パニスガード』といって、主に「何かを守る」という目的を持った『ガーディアン』というクラスに属しているんだ。
…でも、コルーには特に「守るもの」なんてモノが無いから、この人の場合は『コルーの村自体を守っている』と言った方が良いのかもね。
ピニーのおっちゃんってすっごく優しいから、俺、大好き。この前も俺に、「髪、伸び過ぎちゃったね」って言って、紺色の布をくれたんだ。今、俺が頭に巻いているのがソレ。
それとね、昔に聞いた話なんだけど、ピニーのおっちゃんって、もともと武器を持つのが大嫌いだったんだって。…で、そんな人がどうして武器を持つようになったかというと、……秘密ね?
実は、ピニーのおっちゃんには『アンナ・パニスガード』という妹がいたらしくて、俺が生まれるよりもずっと前に、モンスターに襲われて食べられちゃったんだって。
当時、村の誰もが「ピニーのせいじゃない。気付けなかった村人全体の責任だ」と言ってくれてたらしいけど、ピニーのおっちゃんは納得がいかず、それからは妹の仇を取るつもりで村の人を守る決心をしたんだって。
なんだかカッコイイよね! …あっ…秘密ね、ヒミツ…。

はいっ! 次っ!
え~っと、次はそうだな、アルフさんにしよう! だから今の話しは忘れて!
アルフさんとは、にっくきルルフィーのお父さん。フルネームは『フォン=アルフ』。
なんでも、前に住んでいたグディウス協和国内では『恐るべき剣術士』と言われていたらしくて、誰に恐れられていたかというと、それは盗賊と呼ばれる悪い奴らなんだって。
お父さんやピニーのおっちゃん同様、アルフさんの戦っている姿もやっぱり見た事ないけど、その強さは見た目で判る…と、言うよりも、クラスで判る?
アルフさんのクラスは俺の夢見る『パラディン・ナイト』で、別の表現を『聖騎士』
なんでそんなんで強さが判るのかって? そりゃあ、アレだよ、俺が目指している将来だよ? 強いに決まってんじゃん!
その一方で、俺のお父さんはマジック・ソルジャー。別の表現じゃ『魔法剣士』、略して『魔剣士』。…なんかねぇ、「悪魔の剣士」みたいで、恐怖を撒き散らしているみたいじゃん。『聖騎士』と『魔剣士』…。何かの題名に使えそうな気がするほど正反対のイメージが…。
ま、そんな想像から、俺はパラディンが強いと勝手に思っているんだ。
でもね、こんな話をお父さんにすると、お父さんったら、いぃ~っつも、「想像や言葉、それと、名前だけで決め付けるのは良くない」なんて言うんだよ。ホントは悔しいクセに。しょうがないじゃんねぇっ!? そう思っちゃうんだもん! キミはそう思わない?
余談だけど、『恐るべき剣術士』のアルフさんは、『生きる伝説』のお父さんを尊敬しているとか。やめときなって。ハンバーグ食べられちゃうから。

ラストはレッタさん。
とても謎の多い人で、その名も『レッタ』。そのまんま。
君がどう思うかは自由だけど、この国では名前の数にはこだわっていないんだ。他の国がどうかも知らないけどね。
でもね、レッタさんのような名前が一つだけの人って、大体の場合が訳有りだったりするんだ。
例えば、事情があって一人旅に出てるんだけど、名前も伏せなくてはいけない時や、もともと親無しで、誰かが便宜上付けてくれた場合とか、家族間で代表とする人の名前ばかり使われた結果、余った方がいつの間にか忘れ去られていた場合とか、とにかく色々あるんだ。
まあ、例えなんか幾らでも出るからこの辺にしておくけど、レッタさんはその中でも『訳有りの一人旅』だと思うんだ。
だって、いつの間にかこの村に居たし、やっぱりいつの間にか村の人たちと働いているし。…でもソレって旅かなぁ?
喋る事が出来るのか出来ないのか、さっきみたいによく一緒には歩くんだけど、その声は聞いた事も無い。
…でも、『レッタ』という名前を教えたのは、やっぱりレッタさんだよなぁ。…って事は、少なくとも名前を教えられた時に声を聞いた人はいる筈だよねぇ? まさか、指で地面に書いて教えたとか? いや、でも、もし喋れない人だったら…。まあ、人には知られたくない部分ってものが誰にでもあるだろうから、気にしないでおこう。
そんなワケで、早い話、名前なんて本人が判って、その人を指す示す時に他の人が判ればいいものだから、あまりこだわってないというのが多分本音。
この村にも『ゼンティル』さんという人が居るんだけど、その人も名前がそれだけしかない。
ちなみにゼンティルさんの奥さんは『リーザ』。そんで一人娘は『ラーム』。…という、家族全員が一つの名前しか持っていないんだ。別に珍しくもないけどね。
ただ、親戚の家に行った時、それが数十年振りだった場合とか、何かを証明する時なんかは名前1つだと疑われ易いみたいだけど。
とにかく、名前は「あればいいってもの」じゃないみたいだけど、少なくとも2つ持っていた方が時には役に立ちそうだね。

それともう1つ。
俺も含め、今までに登場した人達って、みんな名前が2つまでだったでしょ? だからと言って、何もそれが限度でも無いからね。
俺を我が子の様に可愛がってくれたヨア王国国王『ルーシー・シウトム=Ⅲ世』も、やっぱり複数の名前を持っているんだ。ほら、もう一回読んでみて。名前が3つあるでしょ?

なんだか話が逸れちゃった。レッタさんの紹介に戻そう。え? 逸れ過ぎ? 気にしちゃいけないよ。気は長く持って、常に心は平静に。…さて、いきましょう。

レッタさんがいつの間にかコルー村に住んでいたというのはさっき言ったとおり。
『何も語ろうとはしないが、黙々と村の規則に沿ってくれる』…と、今ではみんなが言うけど、さすがに初めの頃はレッタさんの事を『危険な人物』と言ってたらしいんだ。
そりゃ、仕方が無い話だよね。だって、何を言われても喋ろうとしないし、当然、村に来た頃なんかは「村の仕来たり」だって知らないわけだし、こっちが危険視するものだから、レッタさんだって協力のしようが無いし…。
そんな村人の視線が気になったのか、また、1日の村の動きが判ってきたのか、レッタさんはどこからか持ってきた農作業には欠かせない道具で、自分の畑は持っていないものの、人の畑で農作業を手伝う様になったんだ。
その中、意外にみんなが驚いた事は、昔からこの山に住んでいる人たちよりも、レッタさんの方が作業に手馴れていた事。
常に物静かで喋る事は無いけれど、その働きぶりと親切な態度に、いつの間にかレッタさんは村人として仲間に加えられていたんだ。
今では逆に、村人がレッタさんを頼るようになっていて、今日みたいにモンスター討伐にまで参加させられる始末。
なんだかずうずうしくなってきた気がしないでもないけど、どんな依頼に関しても、決して嫌な顔をする事無く、何も言う事無くその依頼をこなしていく…。
そんな独特な雰囲気を持つレッタさんに憧れる人が増えたせいか、最近じゃ笑顔も見れるんだよ。
でも、それは大人の人の話で、子供から見れば、まだ「こわいおじちゃん」なんだ。
だって、鼻の頭から後頭部にかけて巻きつけてある布のせいで、口や顎が見えないんだ。笑った時だけ、ちょっと目に皺が寄るくらい。
俺はいつもレッタさんを見て、「忍者みたい」って、主に陽動や偵察を得意とするクラスを思うんだけど、お父さんは「恐らく『ソード・マスター』だろう」って、剣術を極めたクラスを言うんだ。
だけど、お父さんの言う事はアテにならないね。なんたって、テキトーな事言って人のハンバーグを食べちゃう人だよ。欲しけりゃ「欲しい」って言えばいいのにね。まあ、そんな事はもういいや。過ぎた事だし。あー、俺って大人。

紹介はザーッと、こんな感じかな? 長々と聞いててくれてありがとうね。
「あーっ! しーくんだぁー! あーそぼー!」
おわっと!? …びっくりした。
ずっと説明を続けているうちに、今度は家に着いていたよ。…ちゃんと前向いて歩いてたかな? ボーっとしていたりしたら、ルルフィーに「夢遊病なの?」なんて、真面目に言われそう。これからは説明の時も気を付けなきゃイケナイな。
今、俺に飛びっきりの笑顔と半ば叫び声に近い声で出迎えてくれたのは『ラーム』という女の子。耳がキンキンしちゃうね。名前について話している途中にチラッと出てきた『ゼンティルさん』の子供だよ。
言い忘れていたけど、村の討伐部隊の編成基準は結構いい加減で、「決められた人物や人数での編成」とかじゃなく、「当番が廻ってきた四軒の大人たち」ってなっている。
だから、大家族が当たれば十人以上でウジャウジャ行く事になるけど、独身ばかりだと四人でヒュルリラ行く事もある。順番が決まっているから、ジャンケンよりもタチが悪い様な…。
まあ、それはさておき、一人っ子のラームが来ているって事は、ゼンティルさん夫婦も討伐か。もちろん、俺のお母さんも。
ゼンティルさん夫婦が討伐の時って、必ずラームがうちに来るんだよね。一人で留守番出来る訳でもないし、それ以前に、うちには妹のリムスが居るからね。
そんで、親の居なくなった我が家で、俺は2人のおもり。…の筈なんだけど、それはもう前の事。
それは、今じゃルルフィーが居るからなんだ。
ルルフィーもラームと同じ様に、親のアルフさんが討伐の時にはうちに来て、リムスとラームの面倒を見ている。…って言うか、一緒に遊んでいる。
やっぱり、女の子同士で気が合うのかな? ルルフィーが来てからというものの、俺ははじき飛ばされちゃったい。…でも、寂しくなんかないよ。
「あー!! るーちゃんだぁ!! あそぼー!!」
「こんにちは、またおじゃまします」そんな一言と共に家へと入ってきたルルフィーに、案の定のラームの声。やっぱりネ…って、その前に、どうして俺の場合は『!』が一つ(!)で、ルルフィーの場合は二つ(!!)なのかなぁ~? ちょっとムカムカ。
始めの頃はこんな事思わなかったんだよ。「あぁ、楽チン」…なんて思っていたくらい。でも、今は楽しそうにしている3人を見ているだけ。なんだか退屈に思えてきててさ、「遊んで!」って言うのも、なんか違うし。……あ、違う! 俺は「楽チン」なの! 寂しいわけ………ないじゃんっ!
気を取り直し、玄関を上がってお父さんを追う俺。
どーせ、リムスとラームのおもりなら、自ら好んで相手をするルルフィーがいるし、どのみち俺の出る幕なんかないからね。
だからお父さんの後を追う。
その理由は至って簡単。今日の討伐メンバーに加えて欲しいから、頼んでみるんだ。
俺だって立派な村人の1人。だから、「今日こそは」の気持ちで頼み込んでみる。…今日こそは!
…今まで一度も連れて行ってもらった事が無いんだ。
「…何だ、居たのか」
お父さんの部屋の前で俺が黙って待っていたら、普通のものと比べるとかなり長い剣を片手に出てきたお父さんにそう言われた。
お父さんは普段着で出陣する人。どうしてかというと、それはお父さんが「素早さ」を第一とした戦い方を基本スタイルとするからなんだ。ちなみに俺もね。
…って、そんな事はどうでもいい。今はお願いを。
「ねえ、お父さん」
とびきりのニコニコでお父さんに声を掛けると、すぐに「どうした?」…なんて、文字に書くとアイソの良さそうな返事をするけど、その声には溜息が混じっていて、表情なんかは「またかよ…」なんて言ってる。…そんな顔しないでよ。
でも、俺は負けないぞ。
「お願いっ! 俺も一緒に連れて行って!」
両手を顔の前でぱちんっ! ぐっと目を閉じて、暫くそのまま。
その後、再びお父さんと目を合わせると、お父さんもそれを待っていて、こう言った。
「まだ実戦には早い。あと3年待て。14にもなれば、私も喜んでお前を連れて行くが、まだ早い。リムスもまだ4歳で、今日来ているラーム、ルルフィーにしても、シルスより幼いのだ。シルスが居ない時に、もし、討伐部隊とは反対の方向からモンスターが襲ってきたら、誰が3人を守るのだ?」
…まただよ。毎回毎回同じ事を…。一度「他の村の人がいるじゃん!」って言ってやりたいよ。…でも、言わない。「あと3年」が「あと10年」になりそうだから。
「とにかく、今日は家に居なさい」
下を向く俺にお父さんは軽く肩を叩き、すぐに台所に居るお母さんを呼びに行っちゃった。あ~あ…、いつもこれの繰り返し。
俺は討伐の日になる度に「今日こそは…!」なんて思うんだけど、結局、出発前には「やっぱりね」…だもんなぁー。それが毎度毎度だから、もうイヤになっちゃう。
それに比べ、お母さんはいいな。「魔力を生き物に向けてはいけない」なんて言って、いっつも何もしないクセして一緒に行けるんだもん。討伐の時だけ、俺とお母さんの立場を入れ替えたいよ。
言葉に出来ないものの、色々と頭の中でグチを言いながらお父さんの部屋を離れると、丁度、玄関が音を立てて閉まったところだった。
…もう行っちゃったんだね。「やっぱり、お前も行くか?」って言葉も無しに…。
その一方では、えーっと、台所かな? そっちの方からは、早くも3人の大はしゃぎの声。…もう「退屈」になってしまった。………自分の部屋に行こっと…。
俺の部屋って2階にあるんだけど、いつもならすぐそこの階段も、今日みたいな日は足が重く、妙に遠く感じるな。
部屋に入ると俺はすぐに窓を開いて、討伐部隊がいつも集まる村の中央集会場を見た。
雲一つと無い、すごく晴れた空の下で、今日の討伐メンバーはやっぱりそこに集まっていた。お父さんにお母さん、アルフさんにピニーのおっちゃん、えっと、あ、ゼンティルさんとリーザさんもあそこに居るし、レッタさんは…? …ああ、あんな見え難い所に…。
おや? あの人…ああっ!? 俺と同じパラディン志願の『ストレ=ガ』とかいう女の人までっ! ズルイ~ッ! 同じパラディン志願なのにぃっ!! なんであの人だけぇっ!? 変だよっ! この世の中っ!!
あー、悔しいな~っ! みんな武器を片手に討伐だなんて、俺も行きたいぃっ! ズルイよみんな、俺だけ仲間外れにして行っちゃうなんてっ! 本当なら討伐に関係の無いストレねえちゃんだって行くんだから、もう一人(俺)くらい増えたっていいじゃん。…ストレねえちゃんは修行旅で偶然ここに居るだけであって、コルー村の人じゃないのに…ブツブツ…。
あ~あ、俺も早く一緒に行ける歳にならないかな。みんなは「討伐なんて行くもんじゃないよ」なんて言うけど、こうやって1人で暇な時間を過ごすよりはいいと思うんだけどな~。下からはきゃっきゃと笑い声がするのに、俺だけつまんないよ。
…大体、なんで俺がこんな思いをしなくっちゃイケナイのっ? …主人公だよ!? おかしくない!?
あー、だんだん頭にきた!
「………」
チラリ、ベッドの下を見る。
ヨア王国では「自分の身の守り方」というものがあって、それらに関する教えの中に「自分の武器は自分の身近な所に置く」といった習わしがあるんだ。
どうしてかといえば、みんなが寝静まった夜、もし、自分の部屋に盗賊が入ったなんて事になれば、最悪の場合、自分の身は自分で守らなくっちゃいけないからね。
そんな時には当然、武器が必要になるでしょ? 少なくとも、武器を持って戦う人には。
そんなわけで、少しでも武器を扱え、自分の部屋なんてものを持つ人のほとんどは、自分から見て手近な所に武器を置いているんだ。
『武器を持てば、皆、戦士』
グディウスの習わしが伝わりつつあるのか、最近ではそういった言葉だって聞くくらい。
…と、いうことで、じゃじゃ~ん。俺のベッドの下にも…、ほーら、あった。
俺が主に使う武器といえば、機敏性を最大に活かし、常に一撃必殺の可能性を秘めた、コイツ、『レイピア』っていう細い剣なんだ。
でも、俺のレイピアはそんじゃそこらのレイピアとはワケが違う。さて、どこが違うのか? 絵がないからね、言葉で説明しよう。
違いの1つとしては、刃の長さ。一般に細剣とは剣や槍と違って「長い・短い」なんて差はあまりないんだけど、コイツはなぜか長く出来ているんだ。どの位の長さかというと、俺が両手をいっぱいに広げて、もう1本手が入るんじゃないカナ~? ってくらい。…と、言えば、おおよその長さがわかるかな? ちなみに俺11歳。やや痩せ気味かも知んないけれど、その辺に転がっている普通の11歳と思ってもらえれば問題ないよ。
え? わかんない? ……とにかく長いの!
話を戻すよ。そんな、一般のものに比べて長いレイピアのコイツを、人は「ロング・レイピア」なんて言う事があるけど、ふふん、そんな安っぽい言い方はやめて欲しいな。
だって、きちんとした名前が付いているんだもん。
その名は『アールムの針』。
武器や防具で、例えば、この『レイピア』という特定の名前以外に別の名が付く場合は、
それぞれにきちんと理由があるんだ。
その理由の中でもとりわけ有り勝ちなきっかけが、『非常に珍しいもの』といった場合。
この世に1つとか2つとか、とにかく存在数の少ないもの。
また、有名な人物が『使った』ものや、『作った』ものなどにも、特別な名前が付けられる事があって、昔、お父さんが使っていた武器にも『ギルスの剣』という名の付いたショート・ソードもその1つらしい。今はルルフィーが持っているけど。
そして最後は、特別な加護や魔力を受けたため、武器に属性が宿ったものなんかにも、「ついでに」といった感じで名前が付く事があるらしい。
そんな理由の中、この『アールムの針』は、多分、1つ目の理由がそれっぽいと思ってる。
昔、お父さんから聞いた話だと、このレイピアは刃全体が特殊な金属で出来ているらしいんだけど、その金属名はおろか、誰がどこで、どうやって作ったかも不明なシロモノ。
しかも、細く長い武器とは、主に「突く」目的に使われる事が多く、レイピアもその類なんだけど、コイツは長いワリに軽く、切れ味もそこそこあって、おまけに丈夫でよくしなる。
普通、細剣を通常の剣と同じ扱いで『横切り』なんてしようものなら、簡単に武器破壊に繋がっちゃうのに、コイツの場合は壊れるどころか変形一つしないらしい。…実は俺もよく知らないんだけどね。
「こんな細剣は見た事がない!」…誰がそう言ったのかは知らないけれど、そんな一言から、このレイピアには『アールムの針』という名が付いたんだって。ちなみに、名前の由来はいい加減。「レイピアを見付けたヨア王国の拠点が『アールム城』だから」だって。変な言い伝え。
また、どうして俺がそんなものを持っているかといえば、普通の人なら納得いかない理由でも、俺としては簡単に納得のいく話。
さっきも言ったけど、俺のお父さんは、かつて国王ルーシーの右腕であって、その名声度は極めて高かったと聞く。
おまけに国王のルーシー自身が俺の事を孫のように可愛がってくれたりもしたんだ。
やがて、お父さんがアールム城を離れる時、ルーシーは「記念に」と言って幾つかの記念品をお父さんに渡してくれたんだけど、ルーシーってば気が利くもんだから、「何か欲しいものはあるか?」なんて、俺にも聞いてくれたんだ。
「待ってましたっ!」…お父さんの隣でそう叫びたかったよ。出来なかったけどね。
そして、いつもいつも何かとルーシーから物を貰っていた俺でも、さすがに城の宝までは…と思っていて、ずっとずっと、口に出す事も無く堪えていた「欲しい気持ち」!
ここでついに言いました。『食堂に飾ってある、長くて細い剣がいいナ』って。
そして、その場で立て続け様に両手をぱちんッ。顔の前ですりすりすり。さっきお父さんにやったみたいに、うわごとのように「お願いお願いお願いぃ…」。
ちょっと時間は掛かったけど、やがてルーシーも「飾るだけでは武器も腐るからな」と折れて、ついにアールムの針は俺の手に!
ま、こんな俺でも、武器一つを苦労して手に入れているんだ。…え? さっきと言っている事が違う? …気にしないで。
………あれ? そういえば俺、何してたんだっけ?
…思い出した。討伐に参加できなくなって…。
想い出のレイピアを片手にすっかりルンルン気分になっていたのに、なんだかまたムカムカ気分に。…嫌な事思い出しちゃったよ、もう。
…そうなんだよな、こうやって武器があっても「使う時」が無くっちゃ、そのうち本当に腐っちゃうかもしれないんだよ。ルーシーもうまい事言ったもんだ。
それにしても、このままずっと時間を過ごしても、退屈なままだよね。きっと夕食もおいしくないだろうし、その前に、原稿自体が進まない?
せっかく武器を持ったんだもん。何かしなくっちゃ、俺自身がつまらないよ。
そう思った俺は、『何か』をひたすら考えた。
そして思いついた事は、『今は村の討伐部隊が外を歩いている頃』という事。
そうだ! 俺も一緒に行っているつもりで。共に戦っているイメージをしよう!
…う~ん、…暗い! まあ、いいや。
さて、今はどんな時か?
そうだなぁ。…ヨシ! 「こちらから気が付かなかった位置から、モンスターが襲い掛かってきた瞬間」だ! しかも、「それに気が付いたのは俺」! うん、ナイスなシチュエーション!
1人で勝手なイメージを作り、狭い部屋の中で『敵』を探す。…あそこに居た!
俺の選んだ『敵』とは、部屋の出入り口のドアノブ。視界に入ったと同時に―――
「せあっ!!」
―――と、レイピアを突き出し、そのすぐあと、ノブに当たる寸前で止める。
…すると?
「…フフ…」
思わず鼻で笑っちゃう。だって、刃先とドアノブの間が、「俺の小指が入るかな?」ってくらいの距離しかないんだもん。この器用さ…ホレボレするよ。イヤ、ホントに。
なのに、…どおしてこんな俺をお父さんは置いていくかなぁ? 今日の俺なんか絶好調じゃん! 何を考えているのかね~? 見る目ないよ! お父さんは!
………今頃お父さん達、どの辺なんだろう…?
急に虚しくなって、再び窓の外を眺めてみんなを探してみるけど、さっぱりわかんない。
目に見える村の外といえば、ほとんどが緑一色で…本当にみんな、歩いているのかな? って思うくらい、どこを見ても緑、緑、緑…。
その前に、今回の討伐は山頂上面なのかな? それとも麓方面かな? それすらも分かんない。うーん、どっちだろ?
ずっと、キョロキョロと窓から外を眺め、お父さんを探し続ける俺。
そして、「やっぱり見付かんないな~」なんて思った頃に、部屋の扉を叩く音がした。
ルルフィー達…じゃないな。下から騒ぎ声がするし。
「んー? …入っていいよ」
誰が来たのか判らないけど、一応の返事をしてみる。すると続いて「シルスよ、居るのかの?」なんて、カンカンのカン高い声。居るから返事したんでしょ。
カチャリと扉が開き、その向こうに現れたのは、長い白髪と長い白髭に顔を覆われた、ローブ姿のおじいちゃん。
紹介するね。
この人は『ヨファルさん』という人でこの村で一番高齢のおじいちゃん。確か70歳だったかな? 人によっては『長老』なんて呼んでいる。
普段はこんな感じで落ち着いているんだけど、ちょっとでも慌て出したらもう大変。
1人で勝手にべらべら喋り始まり、どんなに周囲の人がシラケていても、本人だけは目を血走らせ、興奮のあまりに物を壊してしまう事もよくある…といった、スゴイ人。
2日前も、「大切にしていた花が枯れてしまったんじゃぁ~!!」とか言いながら、手に持つ杖を上げた時、勢い余って台所のガラスを割っちゃったんだ。まあ、悪気が無い事は知っているけどね。
落ち着いて入って来たところを見ると、今日はそんなんじゃないな。大体の想像はつく。多分、この家で1人漏れた俺の話し相手だな。
ルルフィーが来てからというものの、ヨファルさんは俺の家が討伐に当たる度に、こうやって来てくれるんだ。…ちょっと、嬉しい。
そんなヨファルさん、俺の部屋に入るなりこう言った。
「シルスよ…居るのかの?」
…だから居るって。…ぼけてるの?
「おお、居たか。何じゃ、また1人で部屋に入っとって。おまけに狭い所で刃物なんか…。もし足に刺されば痛いだけじゃぞ」
やっと俺を見付けたヨファルさんは、溜息にも似た笑い声なんか出して、何とか俺にも笑いをつくらせようとしている。とっても気持ちが判るんだけど、そんなヨファルさんに、俺はついつい甘えちゃう。
「だってさ~…いいじゃん」
ほら、気付いた時には言葉短かにふてくされちゃう。
本当は言葉の中の『…』に、『何もすること無いんだもん。それに、もし俺が居なかったら、ヨファルさんの登場が遅れるよ。だから』って言いたいんだけど、そんな事を言えばヨファルさんが困るのは当然、話全体がややこしくなるからね。だからやめとく。
「まあ、口に入れるが良い」
そんな俺の気持ちなど知るワケも無く、ヨファルさんは俺にアメだまをくれた。
言われた通りにアメだまを口にポイ。…甘くておいしい、。
続いてヨファルさんもアメだまを口に入れ、ちょっと黙ったまま、2人で口をもごもごさせていた。
耳を澄ませば、いつの間にかエスカレートした遊びの中でリムスが転んだらしく、だんっ! という音に少し遅れ、「うぁぁああー…」の声。アイツ、よく転ぶんだ。
どうせいつもの事だし、俺は動く気もしない。それに、たとえ俺が下に行っても、先に介抱しているのはルルフィーやラーム。早かれ遅かれ俺が行けば、ジャマモノ扱いだよ。
ヨファルさんも「ルルフィーは一緒じゃな?」なんて言っているし。
そんで耳を澄まし続けていると、案の定、ルルフィーとラームの「痛くないよー」の声に、リムスの泣き声は次第に消えていった。
そんな下のやり取りがきっかけを作ったのか、思い出したかのような顔でヨファルさんは口を開く。
「シルスよ、ギルスから聞くのじゃが、お前はいつも討伐に同行したがっておるらしいの。…何故じゃ?」
アメだまを口の中でコロコロ音立てながら、結構、真面目なヨファルさん。
『何故?』そう言われても困っちゃうな。だって、理由なんて幾つもあるもん。
例えば、自分の剣術を試したい事。それと、同じ事かも知んないけど、魔法も試したい気がするなぁ。お父さんの戦い方を見学するのだって理由の1つだし、他にだって、普段じゃ行けない所に行けるかも知んないし、何かイイモノ拾うかも知れないし…。
でも、やっぱり一番といえば………。
「まだ幼いお前じゃ。見た事の無い日常に興味を持つ気持ちはよーく判る。しかし、じゃ。今、村人が行なっておる事は殺し合いの可能性を秘める行動じゃ。生死を分ける、な。そんなところへ行って何が良い?」
んー…『興味』か。確かに興味が無いと言えば嘘になるけど、何もそれだけじゃないんだよね。大人の人からじゃ判らないと思うけど…。こんな事、…言ってもいいのかな?
「…俺さあ…」
「…? なんじゃ?」
「ただ、行ってみたい気持ちもあるんだけど…」
うーん、言葉が詰まる。こんな事言っても解決出来ない様な気がするけど、いや、その前にどう言えばいいのかな?
「淋しいの」…違うなぁ。
「悲しいの」…? …チガウチガウ…。
「…なんじゃホレ? 早く言うてみい」
なんか、怒ってない? 今まとめてんだから、もうちょっと待ってよ。えーと…。
「ホレ早く。ワシじゃって用事があるんじゃから」
わぁーかったよっ! 言えばいいんでしょ、言えばっ!? せっかちだなぁ! ストレートに言ってあげるよ!…てか、用事があるんだったら、はじめから来なきゃいいじゃんっ!
「この村ってさあ、…俺に近い歳の男の子が居ないよね。…みんな、女の子でしょ…?」
本当は思った事を怒鳴り散らした後で今の言葉を言いたかったけど、それじゃ八つ当たりだもんね。だから、もごもごとした口調で言って、「目が怒っとるぞ…」なんて言われたくなかったから、そのまま外に目を向けたら、あら不思議、自分でもしんみりしちゃったよ。
そんな俺の態度に効果があったのか、ヨファルさんは「ほっ?」なんて言って、動きを止めちゃったみたい。
「う…うむ、そうじゃったな。…ワシはこの歳じゃ。シルスの視界で村を見る事が無かったのぅ。なるほどのぅ…」
冷静さを取り戻したヨファルさん。杖をコツコツと床に当てながらそんな事を言う。
わかった! 今日のヨファルさんは、俺のワガママを直そうと説教しに来たんだ。
「すまんのぅ。ワシはてっきり、モンスターと戦いたいだけの、策も何も無い、無謀としか言いようの無い考えだけで、単に行きたがっているのかと…」
やっぱりね、この人は嘘を付けないんだよ。…それにしても、言葉にも嘘がないよなぁ。
「言われてみれば、そうじゃの。今日は…」
もういいよヨファルさん!
言い忘れていたけど、ヨファルさんって1人で話し始めると先が長い人なんだ。このまま放っておくと、夜になっちゃう。おまけに夕食も一緒に食べたりする。隣でなんだかんだ言われながら、とっても窮屈になる。
「ヨファルさん! …あの、お願いしていい?」
「なんじゃ、人が考えとる途中に…」
それって考え事だったの? 思いっきり、返事を求めるような話し方を…まあいいや。今は俺の「お願い」を聞いて。
慌てて言葉を挟む俺に、「何か嫌な予感」のヨファルさん。そんな顔しないで。たいした事じゃない…と、思うから。
「何か召喚してよ! 何でもいい! お願い! 出来れば『男』! …んで、『話が出来る』何か! それで、『恐くない』ヤツ! そんでもって、『戦う』事もで来て、オマケに『そこそこ強い』の!」
『何でもいい』なんて言っておいて、散々条件を重ねる俺。
いつも何かと条件をつける俺に、ヨファルさんは「ほっ?」って驚くんだけど、さすがに今回は「贅沢じゃな…」って呆れている。
でも、そんなことは気にしない。間髪入れず、両手をぱちんと合わせ、さっき、お父さんにした時のように目を閉じる。可愛い孫のような存在の俺に、一つ手を打ってちょーだいな。
俺は知っている。ヨファルさんは魔法能力が高いんだけど、お母さんに似たところがあって、その能力を直接戦闘に使う事は好まないんだ。だから、一般に『戦闘用・護身用』と言われる攻撃魔法はあまり覚えていないんだけど、いざといった時、助っ人を呼ぶ為の召喚魔法を覚えているのを。
そしてもう一つ。俺がこうして頼めば「ヤダ」と言えない事。
国王ルーシーでさえ落ちてしまう俺の技。いつも隣で見ているお父さんやお母さんには効果なくとも、ヨファルさんは必ず落ちる! いや、落としてみせる!!
…ということで、どう? ヨファルさん?
「召喚か。…小さな者ならな」
「ありがとぉーっ!!」
ぃいやりィ~ッ! 話がわかるよ。感謝っ!

シルス&ルルフィー ちびっこ冒険隊、がんばります!

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